「”公務員の刺繍”事件」
タナカ大学一年生の春。
なんとなく入ってみた合気道部にも少しずつ慣れてきた頃。
しかし中高男子校だったので男女でワイワイやるにはまだ慣れない頃。
その部では、ユニホームとして”つなぎ”を作ることになっていた。
そしてその”つなぎ”には、個人のニックネームの刺繍を入れることになっていた。
一年生が集まってその名入れについて話し合っていると、誰かが
「タナカはなんか公務員っぽいから、”公務員”でいいんじゃね?」
と言い、
「それいい!」
と他の一年も同意した。
数日後、タナカの手元には明朝体で”公務員”と刺繍の入ったつなぎが届いた。
タナカは合気道部を去った。
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もう十五年ほど前の話だが、今でも武道とか格闘技とかは苦手である。
合気道そのものは興味深かったけれども、他にも「”スイカの皮”事件」など
部員との価値観の溝がどうにも埋めらなかった経験が後を引いている。
話をメグル君に戻すと、この作品に出てくる修斗の選手達は皆、
「なぜ格闘技をするのか」ということを、答えの有る無しは別にして
自らに問いかけている点で価値観を共有している。
価値観を共有しながら、自分らしい格闘スタイルを作り上げ、
そして互いにぶつけあい、高め合う。
そんな彼らは本当に生き生きしている。
刺繍やスイカにこだわらなければ、もっと本質的な共感が生まれたら、
もっと合気道を、武道を、格闘技を楽しめたのかもしれない。
しかしながら、ドラマ『世界で一番パパが好き』で明石家さんまが
「心の傷に時効は無いんですよ!」と言っていたように、あの「事件」は
これからも僕を武道から遠ざけるだろう。それでいいのだ。(タナカ)
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